| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-347 (Poster presentation)
葉緑体の光化学系Ⅱ(PSⅡ)は光によって高エネルギーな電子を作り電子伝達系に供給するが,PSⅡの反応中心にあるD1タンパク質は光で損傷する.そのため葉緑体内では新たに生合成したD1タンパク質を反応中心へ挿入し,PSⅡを修復し続けている.強光下で栽培し過剰な光エネルギーに晒された植物はこの修復速度が高いことが知られているが(Miyata et al ., 2012),その仕組みは明らかになっていない.
ポリアミン(PAs)は全生物がアミノ酸から生合成する低分子化合物で,葉緑体内に高濃度で存在する.PAsはtRNAの立体構造を安定化させ,タンパク質の生合成を促進する性質があり(Cohen et al ., 1971),葉緑体でのD1タンパク質の生合成を促進している可能性は高い.
これを検証するため,小笠原諸島父島に同所的に生育する5種の木本植物(テリハハマボウ,ムニンネズミモチ,シマシャリンバイ,ハウチワノキ,シマイスノキ)を対象に以下の実験を行った.5種は日最大気孔コンダクタンス(gsmax)が顕著に異なり,過剰な光エネルギー量が異なると予想される
5種の葉を採取し,実験室内で葉柄から人工道管水を一晩付与した後,強光下(1000 μmol m-2 s-1)におけるPSⅡの失活速度(Kpi)と修復速度(Krec)を評価した.その結果KpiとKrec にはgsmaxとの相関が見られなかった.また同様にPAs生合成阻害剤(DFMO)を付与したところ,テリハハマボウを除く4種では強光下でのPSⅡ量子収率(ΦPSⅡ’)が低下する傾向が見られたが,Krecへの影響は見られなかった.さらに,生育地において,5種の葉へDFMOを塗付し,翌日,ΦPSⅡ’の日変化を評価したが,やはりDFMOによる影響は見られなかった.
一方,栽培ホウレンソウを材料に,PAs及びDFMOを葉へ8日間スプレー付与したところ,8日目のΦPSⅡ’がコントロールに比べてPAs付与で高くなるが,DFMO付与は影響を与えなかった.以上の結果からPAsは光合成の光阻害耐性に役立っている可能性が示唆された.