| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-350  (Poster presentation)

ブナの種子~大木の成長を駆動する個体根系/地上呼吸配分シフト 【B】
Shift in root-shoot balances in respiration from seedlings to mature trees in Fagus crenata. 【B】

*黒澤陽子(岩手連大, 山形大学), 森茂太(山形大学), 王莫非(岩手連大, 山形大学), 山路恵子(筑波大学)
*Yoko KUROSAWA(UGAS, Iwate Univ., Yamagata Univ.), Shigeta MORI(Yamagata Univ.), Mofei WANG(UGAS, Iwate Univ., Yamagata Univ.), Keiko YAMAJI(University of Tsukuba)

 重量で1兆倍にも及ぶ芽生え~成木の樹木の成長は、根系の水獲得と地上部の炭素獲得を支える個体呼吸(エネルギー代謝)により制御されている。このような芽生え~成木のサイズに応じた個体生理(呼吸・蒸散・光合成)の芽生え~成木のサイズに応じたシフトはミクロの生理とマクロの生態系機能をつなぐ重要ツールであり、個体レベルでの実測による解明は重要な課題である。しかし、個体生理の多数実測は従来困難とされ、根系/地上部の呼吸のサイズに応じたシフトは実測では解明されていない。
 そこで、本研究は北半球冷温帯代表樹種であるブナを材料に、芽生え~成木の根系・地上部呼吸や個体レベルでの最大光合成速度/最大蒸散速度のサイズに応じた連続的な変化の解明を目的とした。ブナ芽生え~成木262個体の地上部・根系の呼吸を、効率的な測定が可能な密閉式の自作チャンバーを使用して測定した。さらに、ポットに植栽した芽生え~稚樹39個体を材料に最大光合成速度も同様の密閉法で測定し、最大蒸散速度を植栽ポットの重量減少速度から求めた。以上の測定により、根系/地上部呼吸や個体光合成/蒸散のサイズ依存シフトを評価した。
 この結果、芽生えから個体重量約0.01kgの稚樹までは光合成/蒸散が低く留まったが、根系呼吸の割合は約50%まで増加し、根系重量の割合は約80%まで大きく増加した。このように芽生え~稚樹は根へのエネルギー配分が低い割には根系の成長が急速であり、これを起点として地上部へのエネルギー配分や地上部重量の割合と光合成/蒸散が徐々に増加した。
 以上の結果から、「芽生え~稚樹期の低呼吸・急速根系成長」による効率的な栄養塩類吸収促進を起点として、芽生え~成木で水獲得型から炭素獲得型へ徐々に個体構造・機能がシフトして成長が加速する、という「根系による成長牽引メカニズム」の存在が考えられる。


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