| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-355 (Poster presentation)
植物は様々なBVOC(Biogenic Volatile Organic Compound:生物起源の揮発性有機化合物)を放出しており、生態学的にも大気化学的にも重要な役割を果たしていることが近年次々と明らかになっている。テルペンはイソプレン単位からなる炭化水素の総称であり、主に針葉樹における代表的なBVOCである。それらには乾燥ストレスへの応答や、植食者や病原菌への忌避効果があることが報告されている。しかし、種内の地理変異パタンとその形成要因を明らかにした研究はほとんどない。本研究は、日本に広く分布する天然スギを対象とし、環境条件が同一の共通圃場において各産地のBVOC量を比較し、その生理生態学的意義を考察する。
揮発性テルペンの内在量では、日本海側に分布する6集団の方が、太平洋側に分布する6集団よりも有意に多かった。また、内在量と産地における平均気温、年間降雨量に負の相関関係が見られた。放出量は内在量のパタンとは異なり、東西に変異が見られ、南西部においてジテルペンの放出量が突出して多かった。ジテルペン放出量は、サンプル採取時の日照時間との間に有意な相関が見られた。文献情報より、スギの病原菌の全国の分布を01データ化し、内在・放出テルペンとの関係を多変量解析したところ、特に放出量において対応関係が見られた。
内在量の地理変異パタンは、日本海側と太平洋側で異なっていること、産地の気象条件と関係が見られたこと、加えて系統地理学的な変異のパタンとも合致したことから、産地ごとの気候による自然選択の結果である可能性が考えられる。放出量の地理変異パタンは、産地の病原菌組成との関係が見られた一方で、光条件などの至近的な要因にも影響を受けている可能性がある。放出量が多かったジテルペンの主要物質であるカウレンは光酸化によって抗菌性を持つため、今回得られた結果と合わせて考察すると、日射に反応してジテルペンを植物体外へ放出することで耐性を高めている可能性が考えられる。