| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-358 (Poster presentation)
シカをはじめとした大型有蹄類が生態系に及ぼす影響の中でも、林床植生の改変は顕著な問題である。採食撹乱により植物群集の多様性、種構成は変化することが知られているが、背景にある個々の種の詳細な応答についての理解は限定的となっている。植物は採食に対し、形態を可塑的に変化させ適応している。中でも個葉の特性は、生育する環境下でストレスを最小化し、光合成での炭素獲得が最大になり、葉の維持・製造にかかるコストを回収できるように調節されている。光合成による稼ぎとコスト間の炭素収支には植物の生存戦略が反映されている。採食が及ぼす植物群集への影響を評価するとき、葉の形態をあらわす指標である機能形質はよく用いられるが、植物の生育に直接関わる炭素収支を測定した例は少ない。
そこで本研究ではシカの採食の有無により植物群集が変化するメカニズムを、炭素収支の種間・種内変異に示される採食に対する個々の応答の違いに着目し、解明することを目的とした。調査地は防鹿柵が設置されている知床国立公園内の天然林である。シカ採食のない防鹿柵内と採食のある柵外で共通して出現する16種を対象に、植物の光合成速度、葉の製造コストとして炭素量を測定した。
この結果、葉にかかるコストや、寿命の期間に稼ぐ炭素量は種間だけでなく、採食の有無により種内でも大きく異なっていた。シカのいる柵外では、コストを低くし短期間で炭素収支を黒字にできるような戦略が、一方柵内では葉の構造に大きく投資し、長期間で炭素収支を賄うような戦略が適応的であることが考えられる。これらの結果から、採食圧下の植物群集の決定に炭素収支の違いがどう影響しうるのかを考察する。本発表を通し、植物の生存戦略を示す直接的な指標である炭素収支を用いて、群集を評価する方法を提案したい。