| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-359 (Poster presentation)
温帯に分布する一部の落葉樹は、冬季から春季にかけての日長の変化を認識し、冬芽の開芽時期を調節している。落葉樹の冬季における日長の認識は、冬芽内に存在する幼葉が光を受容することで達成されると考えられている。しかし、林冠木の枝や幹などにより日射が断続的に遮断される森林内のような光環境は、時間的・空間的に不均一であるため、個々の冬芽による局所的な光受容のみでは正確に日長を認識することは困難であろう。そのため、林内に分布する樹種が正確に日長を認識するためには、冬芽内の幼葉に加えて枝などの器官においても光を受容し、より広範囲で受容した光情報を利用することが必要であると予測される。本研究では、開放地や林縁部に多く見られるミズキとヤマモミジ、林冠構成種であるブナ、ブナ林内の林床に見られるハウチワカエデとオオバクロモジという異なる光環境に生育する5種の落葉樹を対象に、切り枝を用いた遮光実験を行い、開芽時期を決定する際の光受容器官の特定を試みた。アルミニウム箔を用いて、①冬芽のみを遮光、②枝のみを遮光、③冬芽も枝も全て遮光、④遮光をしないコントロールの4つの処理を切り枝に施した。各枝を人工気象機内に設置し、各処理の開芽率を調査した。その結果、開芽時期の調節に関与する光受容器官や各器官への依存の程度は樹種によって異なることが明らかになった。ミズキでは、冬芽のみで光を受容しており、枝による光受容は開芽に関与していなかった。一方、ブナやハウチワカエデ、クロモジでは冬芽と枝の両者で光を受容していることが明らかになった。ヤマモミジはこれらの種の中間型の光受容特性を示した。この結果をもとに枝による光受容の役割について、各種の生育する立地や森林の構造の観点から議論する。