| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-370 (Poster presentation)
ミナミヤモリ(以下ミナミ)は琉球列島から九州南部に広く分布する普通種である。本種は、九州南部や屋久島で同属近縁種であるヤクヤモリ(以下ヤク)と交雑を起こしており、雑種集団が形成されている地点も存在する。九州南部のミナミの起源は不明だが、屋久島のミナミは移入分布であることから、ミナミとの種間干渉による適応度の低下、もしくは浸透性交雑を介した遺伝子汚染による純系ヤクの消失が危惧されている。両種は外部形態に目立った差がないため、ヤクの消失が人知れず進行している可能性もある。また、求愛行動の違いによって交雑が非対称に生じることが示唆されており、それによる適応度の低下がヤクで大きく、結果ヤクからミナミへの種の置き換わりが生じている可能性が考えられた。そこで本研究では、九州南部及び屋久島で野外調査を行いミナミの分布状況を調べるとともに、マイクロサテライトマーカー16遺伝子座の解析により、交雑状況の経時変化や親種間の遺伝子流動を調査した。また、mtDNAの16SrRNA領域を用いた母親種の推定により交雑の非対称性について調査した。
1999~2019年に散発的に行った分布調査及び集団遺伝解析の結果、九州南部、屋久島ともにミナミが分布を拡げており、交雑が生じている地点数も増加していた。過去に雑種集団が形成されていた地点では純系ミナミが優占しており、純系ヤクは確認できなかった。mtDNA解析では、F1個体に両親種のmtDNAハプロタイプを持つものが含まれていた。そのため、交雑の非対称性がヤクに対する負の影響の主要因である可能性は低いと考えられた。遺伝子流動の解析では、ミナミからヤクへの遺伝子流動は、その逆方向と比較して小さいと推定され、遺伝子汚染による純系ヤクの消失の可能性は限定的であることが示唆された。以上の結果に基づき、ミナミとヤクの種間相互作用を裏打ちするメカニズムについて考察する。