| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-371  (Poster presentation)

絶滅危惧樹木育苗のための菌根菌接種方法の検討: ヤクタネゴヨウの事例から
Inoculation of ectomycorrhizal fungi to endangered tree seedlings: a case study using Pinus amamiana

*大嶋健資(東京大学), 金谷整一(森林総合研究所), 奈良一秀(東京大学)
*Kensuke OHSHIMA(The University of Tokyo), Seiichi KANETANI(FFPRI), Kazuhide NARA(The University of Tokyo)

絶滅危惧樹木の育苗は困難とされている。一般樹種の場合,周囲の森林から適合する菌根菌の胞子が自然に供給されるため,育苗において菌根菌が問題になることは少ない。一方,生息地の極めて限られる絶滅危惧樹種の場合,適合する菌根菌はその残存林にしか生息しておらず,苗畑には一切分布していない。このような菌根菌は宿主である絶滅危惧樹木の生存に不可欠であることが明らかにされている。適合する菌根菌の不在が絶滅危惧樹木の育苗を妨げている可能性は高く,効果的な菌根菌の接種方法を開発することにより現状が劇的に改善されることが期待される。一般に菌根菌を樹木へ接種する場合,子実体が接種源として利用されるが,絶滅危惧樹木特異的な菌根菌の子実体は希少で入手が難しい。本研究では,絶滅危惧樹木の残存林には特異的な菌根菌の埋土胞子が優占していることに着目し,絶滅危惧樹木ヤクタネゴヨウに特異的な菌根菌ヤクタネショウロをモデルケースとして,埋土胞子を接種源とした2種類の菌根菌接種方法の有用性を検討した。充分量の埋土胞子を含む土壌または土壌懸濁液を宿主実生に接種し,一定期間育苗後,植物体の生育調査および化学分析,培土の理化学性分析,菌根菌の感染率測定を行った。結果,土壌を接種した場合のみ,植物体地上部の生育が旺盛な健苗を育成することができた。土壌懸濁液を接種した苗では,草丈,地上部新鮮重・乾燥重,充実度,地上部全リン量などが有意に低下し,ヤクタネショウロ菌根が形成された苗の頻度も低く(土壌を接種した場合:76%,土壌懸濁液を接種した場合:40%),ポット当たりの感染率も土壌を接種源とした場合の半分程度であった。供試土壌の粘土鉱物の割合は5%未満だったが,土壌懸濁液を接種したポットではいずれもクラストが形成され,育苗性が著しく悪化した。埋土胞子は有用な接種源となり得るが,健苗の育成には適切な接種方法の選択が必要だと考えられる。


日本生態学会