| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-372 (Poster presentation)
現在、湿地は世界中で消失が進んでいる。残された湿地も、周辺農地からの土砂流入などによる生態系の劣化という問題に直面している。しかし、人為的影響下にある湿地植生を長期的に追跡した研究例は少ない。長野県・菅平湿原では過去に植生調査が行われ、初回調査以降に土砂堆積・河道工事といった人為的影響が強まり、生態系の劣化が懸念されている。そこで本研究では、菅平湿原の植生を2019年に調査し、過去の報告と比較することで植生の変容を明らかにすることを目的とした。
森林化の程度を明らかとするためにドローンによる空中撮影を行い、目視で植生タイプを判別した。また植物相調査では湿地本流に対して30 mごとに垂直に交わるように、幅2× 長さ180~460 mの調査区を10設置し(総面積5400 m2)、その中に出現する維管束植物種を記録した。種組成調査では、湿地表土の様子から3つの表土タイプを区別し、各タイプに幅1× 長さ20 mの区画を3つずつ設置し(3タイプ×3区画=計9区画)、出現維管束植物種や環境要因などを測定した。
調査の結果、51年間で森林が約1.6倍(46→76%)に増加し、ヨシ・スゲ群落が0.4倍(48→20%)に減少していて、湿地の急激な森林化が明らかとなった。ここで消失・存続・侵入種についての概況を説明する。侵入種は非湿生植物と外来種の割合が大きく(p < 0.05, Fisherの正確検定)、消失種では水生・湿生植物の割合が小さい傾向にあった。そのため非湿生植物は年々増加し、反対に湿生植物は減少傾向にあった。表土タイプや環境要因が植物の種組成に与える影響については統計的に検出されなかった(p = 0.29、PERMANOVA)。以上より、菅平湿原では51年間で森林化が急速に進行し、湿地の植物種が「総入れ替わり」に近いほどの種組成変化が起こっていることが明らかとなった。このような変容は土砂堆積と河川直線化・河床掘り下げ工事の長期的な影響が主な要因であると考えられる。