| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-374 (Poster presentation)
生物多様性の消失は、生態系サービスの劣化を通して人間社会に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そのため、人々は生物多様性の保全という手段によって、生態系サービスを維持していく必要がある。自然景観や生物群集に対する人々の選好性は生物多様性保全に対する動機付けに潜在的に影響を与えていると考えられている。選好性を左右する要因の解明は、保全策を社会に浸透させる手段を検討する際に有効であり、生物多様性保全に寄与しうる。
先行研究では、花の色や個体数が多い群集がより選好されることが明らかにされているが、種数そのものに対する選好性や、訪問目的が異なる場所間における傾向の違いの解明は不十分である。
本研究では、①植物群集の要素・②社会的背景・③訪問場所と、植物群集に対する選好性との関係を明らかにするために、自然公園(八甲田)と都市公園(横浜市内)において対面式アンケート調査を行った。選好性調査には、花の色の数、種数、灌木の有無について操作したデジタル合成写真を用いた。
結果、訪問者の自然への関心は自然公園の方が都市公園よりも高かった。公園訪問者は概して自然経験が豊かな人が多く、自然経験が公園を訪問する意欲に結びついている可能性が考えられる。人々は訪問場所に関わらず花の色や種数が多く、灌木がない写真を選好した。
人々の選好性と生態学の観点から望まれる保全目標との対立がしばしば指摘されてきたが、本研究では生物多様性の要素である花の色や種数が多い群集を人々が選好することを明らかにした。この結果から、人々の選好性は保全目標と概ね調和的であり、生物多様性保全に向けた制度や政策の社会浸透を促進する可能性があることが示唆された。しかし実際の生物多様性保全の現状を考えると、より一層保全策を社会に浸透する必要があると考えられるため、今後は更に人々の保全に対する動機を左右する要素を詳細に明らかにしていくことが課題だろう。