| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-378 (Poster presentation)
近年、大型哺乳類の行動追跡においてGPSテレメトリー調査が盛んに行われるようになってきた。しかし中型哺乳類の研究にGPSテレメトリーを用いた事例はまだ少ない。ホンドタヌキ (Nyctereutes procyonoides viverrinus, 以下タヌキ) は、日本の本州から九州の広範に分布する在来の中型食肉目動物である。二次的な自然環境や農地、市街地がモザイク状に配置された里山は、タヌキの典型的な生息環境の一つである。よって本研究では、里山環境においてタヌキの生態調査を目的とする際の、GPSテレメトリーの利用可能性の考察を目的とし、狭山丘陵においてGPS発信器の送受信試験とタヌキの個体追跡を行った。GPS発信器の送受信試験は、2019年10月9日から11月1日に、都立野山北・六道山公園内において、タヌキの休息場としての利用が考えられる環境 (下層植生下や側溝内など) に発信器を置いて位置情報の取得状況を調べた。個体追跡は、都立狭山公園周辺で保護されたタヌキの亜成獣オス2頭 (M1, M2) にGPS首輪を装着し、19時から翌朝5時に1時間間隔で夜間データとして測位し、日中にも休息点1点を昼間データとして測位した。M1は2019年1月23日~2月13日の22日間、M2では2019年3月1日~3月27日の27日間追跡した。GPS発信器の送受信試験では、閉鎖的な環境では測位成功率と測位誤差距離に差があった。個体追跡では全データの測位成功率が78%と、十分解析ができる点数を得られた。しかし昼間データは夜間データに比べ測位成功率が52%と有意に低く、また市街地を利用した際には、夜間データの測位成功率も低下した。これらのことから、活動性が低下する冬季や巣穴で子育て中の個体、側溝や床下などを頻繁に利用する可能性のある都市環境に生息する個体の生態調査にはGPSテレメトリーは適さず、使用する際は事前の測位試験が必要だと考えられた。