| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-379 (Poster presentation)
カンムリウミスズメ(Synthliboramphuswumizusume)は日本近海でのみ繁殖する海鳥で,国の天然記念物に指定されている。個体数は5,200羽から9,400羽と推定されており,環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。カンムリウミスズメは潜水して魚を捕食するため,刺し網にかかって混獲される可能性がある。また繁殖地が沿岸域にあるため,利用する可能性の高い海域が洋上風力発電の好適地として設置候補場所に含まれることも多い。本研究では,2018年と2019年4月に静岡県神子元島で繁殖するカンムリウミスズメにデータロガーを装着し,3羽のデータから採餌域や移動経路,飛行高度を調べることで,繁殖期のカンムリウミスズメの利用海域と人間活動の影響を明らかにした。
結果は,3個体とも島の西方500m付近で数時間滞在したのち,海流に流されたような軌跡で島の南方を通過して,島の南東1~6kmに移動した。それ以降の移動は個体ごとに異なった。採餌していたと考えられる場所は島の東~北東4~8km付近で,その海域は水深50mから200mに落ち込む陸棚急斜面だった。このような海底地形は栄養塩を表層へ供給する湧昇流を発生させることになり,好漁場となっていると考えられた。またこの採餌域は船舶航行数が多い航路と重なっていた。カンムリウミスズメの行動範囲には南伊豆洋上風力発電の設置計画海域の東端部含まれていたが,飛行高度は40m未満が大半で,風力発電と衝突する恐れのある高度での飛行は少なかった。これらの結果は,カンムリウミスズメの繁殖期での重要な利用海域が人間の海洋利用の場とかなり重複する可能性を示している。