| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-388 (Poster presentation)
近年、環境DNAの分析技術が大きな進展を見せ、現場での適用事例も増加している。生物の保全対策検討や建設事業による生物への影響予測・評価を行う際にも環境DNA分析を用いることで、より効率的かつ低コストで生物情報を得ることができる。一方で、従来の捕獲調査との分析結果の特性の違いや、具体的に縮減可能なコスト等については判然としていないのが現状である。そこで、河川事業におけるシロウオ産卵場の現地調査において、目視による産卵場調査に加えて環境DNA分析を実施し、両調査の比較からモニタリング調査としての現場適用性を検討した。環境DNA分析には、大きく分けて種特異的な検出系と網羅的な検出系(以下、メタバーコーディング)の2種類の分析方法があり、現在は網羅的な検出に注目が集まっている。一方、本ケースのように特定の種に着目している場合では種特異的な検出が適すると考えられるため、どちらの手法が特定種の検出に適しているか比較するため両手法とも実施した。さらに、捕獲調査と環境DNA分析の具体的な調査費用の比較も実施した。種特異的検出を行った結果、採水を行った5地点のうち4地点でシロウオのDNAが検出された。一方、メタバーコーディングでは5地点のうち3地点でシロウオのDNAが検出された。この結果から種特異的検出が特定種の検出に適していることが示された。また、メタバーコーディングの結果から、堰堤より下流の4つの野外サンプルから計9種と4属の魚類のDNAが検出され、得られた種の多くは淡水魚であった。さらに、捕獲調査と環境DNA分析の費用を比較したところ、本研究では約24 %のコスト削減と試算された。目的や予算に合わせて、採水回数や地点数を調査計画の段階で十分に検討する必要があるが、環境DNA分析は短時間かつ低予算で、魚類相の分布のファーストスクリーニングができるモニタリング手法であると言えるだろう。