| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-391 (Poster presentation)
ベンケイガニ科に属するアカテガニ Chiromantes haematocheir 及びクロベンケイガニ C.dehaani は、護岸工事などが原因で生息数が減少している。両種は同一河川内に生息することが多いため、各種の生態に応じた保全対策が必要である。成体期は種ごとに異なる生息環境を利用することが明らかになっている。しかし、幼生期は外部形態のみで種判別を行うことが困難であることから、生態の種間差異は不明であった。そこで、遺伝子解析によって両種の幼生を分類し、各種の生態について明らかにしようと試みた。特に、メガロパ幼生の同一河川内における着底に着目し、その着底パターン (時間的、空間的) 及び潮汐による着底への影響を種間で比較した。
メガロパの着底調査は石川県金沢市を流れる犀川の最下流部で行った。メガロパの採集は人工芝などの人工基質を用いた。人工基質の設置場所は、アカテガニ成体優占区域、クロベンケイガニ成体優占区域及び対岸の護岸河岸の3箇所とした。採集時期は2017年8月から11月で、人工基質の回収日は大潮、小潮それぞれの時期に重なるように設定した。
遺伝子解析の結果、メガロパ2種の着底時期は種間で異なっており, クロベンケイガニは8月中旬から10月上旬に着底し, アカテガニは9月上旬から11月上旬に着底していた。空間的着底パターンの差異として、アカテガニのメガロパは同種成体優占区域へと着底する傾向があり、クロベンケイガニのメガロパは, 同種成体、近縁種成体優占区域及び護岸河岸で着底した個体数に差はなかった。また、潮汐が両種メガロパに与える影響について、アカテガニは大潮に集中して回帰し、クロベンケイガニは潮汐による影響は見られなかった。これまで、アカテガニ及びクロベンケイガニのメガロパ幼生は外部形態が類似しているため、同一の分類群として扱われてきた。しかし、遺伝子解析によって、メガロパ幼生を分類することで、各種の生態に応じた保全策を行うことが可能となる。