| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-392 (Poster presentation)
里山の管理放棄による生物多様性の低下が明らかになり,生物多様性保全のための里山の植生管理が行われるようになった.植物の種多様性に植生管理はプラスの影響があるとされるが,昆虫の種多様性に与える影響は分類群により異なることが知られている.しかし,里山の植生管理の違いが複数の分類群の昆虫相にどのような影響を与えているかを同時に比較した研究は殆どなく,植物と昆虫の種多様性や種構成を比較した研究もない.
本研究では,東京都八王子市の東京農工大学フィールドミュージアム多摩丘陵(FM多摩丘陵)と神奈川県川崎市の日本女子大学西生田キャンパス(西生田キャンパス)において,伐採や落ち葉掻き,刈取りなど管理方法の異なる雑木林や林間草地でマレーズトラップ,ピットフォルトラップ及びスイーピングによる昆虫相調査とBraun-Blanquet法による植生調査を行い,と種多様性と種構成を比較した.昆虫の種多様性はH’と 1/Dを算出して比較し.調査区間の種構成の比較にはNMDS解析を用いた.植生データでは優占度に基づいてH’の算出とNMDS解析を行った.
鞘翅目,双翅目,鱗翅目昆虫は管理強度の強い調査区で種多様性が高かった.半翅目昆虫は管理された林間草地や雑木林伐採地で種多様性が高かった.地表徘徊性昆虫は調査区間での種多様性の違いは小さいが,落ち葉搔きされた雑木林で種多様性が最も低かった.FM多摩丘陵では雑木林と草地とで,西生田キャンパスでは雑木林の管理区と放置区とで昆虫の種構成が異なっていた.昆虫と植物の種多様性との間に有意な相関関係はなかったが,昆虫と植生のNMDSの第1軸スコアとの間に高い相関係数をとるものが多く,植生管理の強度に伴う昆虫相と植生の種構成の変化には対応関係が認められた.
雑木林の下刈などの植生管理は鞘翅目昆虫など多くの昆虫分類群の種多様性にプラスであるが,雑木林での落ち葉掻きは地表徘徊性甲虫の種多様性にはマイナスの影響を与えた.