| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-397 (Poster presentation)
印旛沼周辺には、「谷津」と呼ばれる樹上に分岐する小規模な谷が多数存在する。谷津の奥部は湧水が豊富であり、かつてはこれを利用して水田耕作が行われていた。また、湧水の温度は季節を通じて安定しているという特徴があり、湧水依存の生物が生息する固有性の高い生態系が発達する。しかしながら、谷津を取り巻く環境は、高度経済成長期頃から大きく変化した。台地上では、大規模宅地開発に伴い樹林が切り開かれ、雨水浸透面が減少した。低地では、生産性向上を目的とした農業の近代化により水路の改修が行われた。更に近年では耕作放棄が進行している場所も多い。谷津では多くの生物が絶滅危惧種に記載されてきた背景から、これまでは種の選好環境を明らかにする保全のアプローチがとられてきた。局所的なハビタットの研究では、各種の生息に好適な条件についての理解は進むが、さらにその背景にある「生息適地を成り立たせている条件」までは分からない。保全計画の立案では、谷津をとりまく環境、すなわち、土地利用など景観スケールも考慮することが必要となる。
本研究では、印旛沼に流れ込む河川である神崎・桑納川流域と高崎川流域を対象に、湧水依存生物(オニヤンマ幼虫、サワガニ)の谷津での分布に影響する環境要因を明らかにした。航空写真から谷津地形と判断できた地点に現地調査に行き、対象種の確認、物理環境の測定を行った。土地利用など調査地周辺の環境も解析に含めた。
調査を行った48地点のうち、サワガニは29地点、オニヤンマは31地点で確認できた。どちらの種も湧水がある地点での生息が多かった。サワガニとオニヤンマは、アメリカザリガニと同所的に捕獲できる場所は少なかった。サワガニの在不在には、水深・流速・有機物量が、オニヤンマの在不在には水深・流速が関係していることが示唆された。