| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-398 (Poster presentation)
気候変動の進行に伴い、気温の上昇や集中豪雨の増加など湿地が発揮する生態系サービスの重要性が増加している。印旛沼流域には小規模な多数の谷(谷津)が多数存在する。谷津の谷底は古くから水田として利用されてきた。また、湧水によって涵養される谷底湿地は、湿地性生物にハビタットを提供するほか、貯留による流出抑制機能、脱窒による水質浄化機能など、多様な機能を持ちうる。しかし、耕作放棄地となった谷津は開発によって失われつつあり、現在では戦後直後の約半数しか残存していない。それでも流域全体では600か所近くが残存している。本研究では、印旛沼の水源であるこれら小規模な多数の谷(谷津)の放棄水田を対象に植生と生態系機能の評価を行った。
現在、放棄水田となっている谷底が湿地として維持されているか明らかにするため、34地点で植生調査を行った。12地点でセリやミゾソバといった在来湿生植物が最も多く確認され、多くの地点で湿地らしい植生が確認された。
生態系機能としては水質浄化機能と流出制御機能に注目した。水質浄化機能は、植生調査を行った谷津のうちの18地点で水質の調査を行った。谷津の奥部にある湧水と谷津からの出口の2点で硝酸イオン濃度を比較することで評価した。流出制御機能は、谷津の内部や周辺が都市化された都市型谷津と、樹林や草原が残存する自然型谷津で降雨量と流出量の連続測定を行い、降雨流出特性を比較することで評価した。18地点中10地点で硝酸イオン濃度の低下が確認され、湿地植生が成立しやすい湿地で水質浄化能力が発揮されやすい傾向が見られた。自然谷津では雨水の河川への流出を遅延・抑制させ、都市型谷津と異なる流出制御効果を持つことがわかった。湧水が豊かで、それらを貯留できる畦などの構造がある耕作放棄水田は、湿地植生の保全、水質浄化、治水に寄与しうることが示唆された。