| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-401 (Poster presentation)
氾濫原は、洪水に伴う自然撹乱により多様な湿地環境が動的に維持され、多様性と固有性の高い生物相が成立する。しかし農地や宅地の開発によりその面積は減少している。このような状況の中、遊水地は氾濫原の生物の代替的な生息地になることが期待されている。ただし多くの遊水地内では強い撹乱が生じにくいため、植生が均質化し易い。故に、追加で撹乱が生じることは、遊水地の生物多様性保全に対して正の効果をもつことが期待される。
遊水地は野生生物の生育・生息地だけでなく、より多目的な場としても機能する。静岡市にある麻機遊水地は多くの主体に様々な目的で利活用されており、その目的の違いにより様々なタイプや強度の人為的撹乱が生じている。これらの利活用に伴う人為的撹乱は、遊水池の生物多様性の保全に結果的に寄与している可能性がある。そこで、利活用による撹乱が植生に与える影響について調べた。
麻機遊水地で利活用が行われている地点のうち5地点(利活用区)と、利活用の有無以外の条件(比高や土壌の来歴)が共通している地点(対照区)で植生調査を行った。これらの利活用の目的は、それぞれ水田、希少種の保全、環境教育、販売用の盆ござづくり、治水事業である。調査では1m四方のコドラートを10個設置し、その中の出現種を記録した。また、利活用地点で複数の異なる植生がみられた場合はそれぞれの植生について調査を行った。
利活用区と対照区の植生を比較したところ、水田、希少種の保全、環境教育の利活用区の方が対照区よりα多様性が高かった。次に地点間の種組成の非類似度(Bray-Curtis index)でNMDSを行ったところ、対照区のみの凸包より遊水地全体での凸包が大きかった。また凸包の頂点の中には、α多様性の低い盆ござづくりの利活用区が含まれた。この結果から、目的の異なる様々な利活用が行われていることが、遊水地全体の植物相の多様性に寄与していることが示唆された。