| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-402  (Poster presentation)

絶滅危惧種の分布フロント個体群を対象としたゲノムワイド解析
Genome-wide analysis of endangered plant species growing at the edge of the species distribution

*芝林真友(京都大学), 國府方吾郎(国立科学博物館), 阿部篤志(沖縄美ら島財団), 横田昌嗣(琉球大学), 遊川知久(国立科学博物館), 陶山佳久(東北大学), 内貴章世(琉球大学), 栗田和紀(京都大学), 永野惇(龍谷大学), 本庄三恵(京都大学), 井鷺裕司(京都大学)
*Mayu SHIBABAYASHI(Kyoto Univ.), Goro KOKUBUGATA(Natl. Mus. Nat. Sci.), Atsushi ABE(Okinawa Churashima Foundation), Masatsugu YOKOTA(Univ. of the Ryukyus), Tomohisa YUKAWA(Natl. Mus. Nat. Sci.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku univ.), Akiyo NAIKI(Univ. of the Ryukyus), Kazuki KURITA(Kyoto Univ.), Atsushi J. NAGANO(Ryukoku univ.), Mie N. HONJO(Kyoto Univ.), Yuji ISAGI(Kyoto Univ.)

東南アジアには多数個体が分布する一方で、分布北限域にあたる日本では琉球列島のみにごく少数個体が生育する、ヤドリコケモモ、タイワンホトトギス、ナガミカズラ等の植物種を対象に、遺伝的多様性と遺伝構造の解明を行い適切な保全策の構築を試みた。日本国内と東南アジアから採集した解析試料についてRAD-seq法によるゲノム縮約解読を行い、種内系統関係、集団遺伝構造を解析した。更に、ゲノム内のヘテロ接合座頻度に基づく1個体内のゲノムレベル塩基座多様性から、その個体が属する集団の遺伝的多様性を推測した。 種内系統解析や集団遺伝構造解析の結果、ヤドリコケモモ、タイワンホトトギスのように国内集団がユニークな系統である分類群もあれば、ナガミカズラのように国内集団が海外集団と同一クレードに属する分類群もあった。1個体のゲノム内ヘテロ接合座頻度で遺伝的多様性を評価したところ、ヤドリコケモモの日本集団は、海外の同種個体と比べて多様性が著しく低く、隔離された小さな集団内で世代交代を繰り返してきたことが示唆された。その一方で、ナガミカズラは、国内には1クローンのみが野生で生育していることが明らかになったが、国内集団のゲノム内ヘテロ接合座頻度が比較的高く、海外から自然散布によって日本に到達した後に、少数回の世代交代しか経ていない可能性が高いと考えられる。また、タイワンホトトギスは、複数の系統を含む分類群であることが示唆されたが、西表に生育するものに限っても、系統関係やヘテロ接合座頻度からクレードの独自性や遺伝的多様性が高く、保全価値が高いものであると評価できる。このように、個体数の少なさという共通点を持つ3種が、それぞれ異なる遺伝的状況にあることが明らかになった。


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