| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-404 (Poster presentation)
ムニンノボタンMelastoma tetramerumは,現在小笠原諸島の父島にのみ生育する常緑低木である.環境省レッドリスト2019では絶滅危惧IA類に分類され,また平成16年に国内希少野生動植物種に指定されている.1985年から東京大学附属植物園により保護増殖事業が実施されているが,自然更新が行われる環境条件を把握できていない,播種による増殖がうまく出来ないといった問題が生じている.そこで本研究では,ムニンノボタンの現状を把握した上で,自然更新が行われない原因を探るため,ムニンノボタン自体やその生育地の環境要因を調査し,今後の保全策に活かすことを目的とした.
ムニンノボタンの生育する父島の東海岸1地点・東平4地点・夜明山2地点を対象とし,2018年9月より定期的に成木・実生個体数の調査を行った.また,植物園の播種試験地での実生観察を行い,枯死する様子をインターバル撮影で捉えた.他に,現地での直接観察およびカメラを用いた定点観察により,送粉者・果実採食者(種子散布者)を把握した.加えて,由来が判明している植栽株以外の全個体を対象として遺伝解析を行い,集団遺伝構造を調査した.
野生の個体数について,成木は全ての生育地で緩やかな減少傾向にあった.一方で,サイズが小さいため発見が難しいが,東海岸や夜明山の生育地では実生が発生していることが確認された.播種地での実生の定点調査で,水不足や外傷により枯死していることが示唆されたため,発芽後の生長がうまく行われていないことが考えられた.送粉者としてはオガサワラクマバチ,果実採食者としてはメジロ・クマネズミが観察された.これらの種は減少が報告されていないため,相利的な相互作用のある他種は問題無いと考えられた.遺伝解析の結果,野生のムニンノボタンは東海岸クラスターと東平クラスターに分かれることが確認された.保全活動を行う際は,これらを区別して取り扱い,不要な交雑を避けるべきであると考えられる.