| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-413 (Poster presentation)
水草は湿地生態系の基盤となる一次生産者であり、水生生物の採餌・産卵・避難場所としての機能を担っている。水草の中でも浮遊、沈水、浮葉植物は水散布に適した繁殖体を作るため、流水がこれらの分散を促進する。氾濫原に形成される後背湿地では、時折起こる河川の氾濫によって水草の分散が行われるが、農地化や都市化の進んだ後背湿地においては、生育地(湖沼)間をつなぐ農業水路や排水路が水草の分散経路としてどの程度機能しているのかはあまり明らかにされていない。また、水草群落構造は物理環境や水質にも影響を受ける。特に過度な富栄養化は、群落構造を大きく変化させる要因となる。そこで本研究では、後背湿地における水路による連結性と水質等の環境要因が、水草の群落構造に与える影響を解明することを目的とした。
北海道十勝川下流域の農地景観に点在する計20個の湖沼において水草群落構造(出現種数、種ごとの被覆率)と、各湖沼の連結性指標、湖沼周囲の土地利用率、物理環境(水深、水深のばらつき、面積、濁度)、栄養塩指標(溶存全窒素、溶存全リン)を算出した。構造方程式モデリングを使用し、水草群落構造に影響を与える環境要因を調べた。
本調査地において水路による湖沼間の連結性は、水草種数と、水散布に特化した繁殖体を持つ種の被覆率を規定する要因となった。一方、コウキクサ属などの富栄養化耐性が高く水散布以外の分散が可能な種や、タヌキモなどの富栄養化耐性が低い種では連結性の影響は検知できず、局所環境への適応度によって分布が規定されていると考えられる。このように、後背湿地における分散経路としての水路の機能は、水散布に特化した種にとっては非常に重要であり、全体の種数にも影響を及ぼすことがわかった。また、水草の種多様性は富栄養化により減少したため、富栄養化対策を講じることが水草群落を保全する第一歩となりうる。