| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-416 (Poster presentation)
環境保全型農法の一つである有機農業は生物多様性の保全や様々な生態系サービスの向上につながると言われている。しかし、化学農薬・化学肥料を使用しない有機農業の中のどの管理方法が生物多様性や生態系サービスにどのように影響するかは明らかになっていない。そこで本研究は、有機農業の管理のうち、有機質肥料に注目し、施肥条件の違いが耕地生態系における土壌動物相と地表徘徊性昆虫相と、それらを介した生態系サービス(作物残渣分解サービスと害虫抑制サービス)に与える影響とそのメカニズムを明らかにすることを目的とした。
本研究では、27年間にわたり飼料用トウモロコシと冬コムギの二毛作を、無施肥、化学合成肥料、有機質肥料を連用してきた長期試験圃場において、土壌の物理化学的性質と土壌動物・徘徊性昆虫個体数を調査した。調査はトウモロコシ播種後1週間ごとに11回行った。土壌の物理化学的性質として含水率、炭素含有率、窒素含有率、pH、団粒構造を測定した。土壌動物はツルグレン装置で、地表徘徊性昆虫はピットフォールトラップで採集した。
作物残渣分解サービスはリターバック法によって、害虫抑制サービスはトウモロコシの食害痕数をカウントすることで測定した。リターバックには3種類のメッシュサイズ(5000µm,263µm,30µm)を用いた。
土壌動物は16亜目4463個体、徘徊性昆虫は23科11047個体が採集された。肥料条件と調査日の天候を説明変数、物理化学的性質及び生物個体数を目的変数とした一般化線形モデルを構築した結果、土壌物理化学的性質と土壌動物は施肥の影響を強く受けるが、徘徊性昆虫は施肥の影響をあまり受けないことがわかった。また、作物分解サービスは有機質肥料の投入により土壌物理化学的性質や土壌動物の変化を介して向上するが、害虫駆除サービスについては有機質肥料の投入により著しくは向上せず、また地表徘徊性昆虫との関連性も見られなかった。