| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-423 (Poster presentation)
本研究の対象地域である小笠原諸島は, アオウミガメの北部太平洋最大の産卵地として知られていると同時に, 食用目的のウミガメ漁が行われており, 現在も年間約100頭が捕獲されている. しかし, その捕獲頭数に科学的根拠はなく, 適切な捕獲規模を議論する必要がある. 捕獲頭数を定めるためには, 基盤となる情報である現存個体数を明らかにする必要があるが, ウミガメ類に対して個体数を推定した研究例は少なく, その推定精度についても十分に検証されていない. そこで本研究では, 2001-2019年に大村海岸で実施された標識放流記録からウミガメ類成熟雌個体数を推定する方法の開発とその推定精度の検証を行った.
標識放流記録から個体数を推定する方法の一つとして, Jolly-Seber (JS)モデルが挙げられる. 本研究ではウミガメの産卵回遊パターンを考慮するために, 産卵回遊の有無を潜在変数として取り入れることで, 回帰確率と個体数, 生存率の同時推定を可能とする階層ベイズ型JSモデルを開発した. パラメータの推定はMCMC法を用いて行った. また, シミュレーションデータへの適用を通し, 推定精度の検証も併せて行った.
最も単純なモデルにおいて, 2001年から2019年にかけての個体数の推移は個体数の指標値である産卵巣数(砂浜に産み落とされた卵塊)と同様に増加傾向を示しており, 最近年の個体数は376 (95%CI=354-402)であった. これはその年の産卵巣数と比べると1.72倍の値であった. 生存率は0.94(95%CI=0.92-0.94)と推定され, この値は他地域における先行研究の値と近い値を示していた. その他のモデルや推定精度の検証については, 当日報告する.
本研究では一つの海岸(大村海岸)で得られた調査記録を用いて成熟雌個体数の推定を行った. 小笠原諸島では産卵可能な浜が多く存在する. 個体群全体の個体数を把握するためには, 成熟雌個体の産卵浜の選択性も考慮に入れていく必要がある. 今後の展望として, 空間構造を含めた解析に発展させていく必要があると考えられる.