| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-441 (Poster presentation)
外来生物の侵入は生物の絶滅の主要因であり、捕食・競争・交雑などを通して、在来生態系に悪影響を及ぼす。これらの侵入は、輸入や輸送物への付着などに起因するが、特に輸入されたペットの逸出による割合が高い。しかし、ペット由来の外来種の調査や管理は、産業界の規制への抵抗や市民の駆除への反対などのために困難である。また、亜種や地域個体群による“隠蔽的侵入(Cryptic invasion)”の場合には、形態的な違いが少ないため認識されにくい。
北海道において、ペット由来の外来シベリアシマリスEutamias sibiricusが隠蔽的侵入を引き起こしている可能性がある。外来シマリスは、競争や交雑などの在来エゾシマリスE. s. lineatusに対する悪影響が懸念されている。しかし、外見での区別が困難なため実態は分かっておらず、侵入状況の解明が急務である。また、外来シマリスは在来シマリスと冬眠期間が異なる可能性がある。そこで本研究は、北海道における大陸産シマリスの侵入状況と生態の解明に向けて、1) 在来シマリスの遺伝的独自性、2) 大陸産シマリスの侵入の有無、3) 侵入地点での冬眠期間、を解明することを目的とした。
本研究では、北海道内の全域をカバーするように採取したサンプルについて、mtDNAのCytochromebを用いて系統解析を行った。また、冬眠期間については、2018年から2019年にかけて札幌市円山公園でルートセンサスを行った。
DNA解析の結果、在来シマリスは外来シマリスと遺伝的に異なることが明らかになった。また、韓国系統の遺伝子型が検出され、外来シマリスの定着が示唆されたため、交雑などによる遺伝子汚染が懸念される。侵入地点であった円山公園での冬眠期間は約3か月であり、冬眠期間の系群による違いが示唆された。これらにより、形態での区別が困難な外来シマリスについて、遺伝子と冬眠期間による判別の、管理への活用可能性が示された。今後は、侵入状況や核DNAによる交雑の有無の解明が必要だと考えられる。