| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-443 (Poster presentation)
生息域が限定的な種は、環境変化や外来種の導入などにより高い絶滅リスクにさらされている場合がある。近縁の外来種との交雑による遺伝的撹乱は外見上で認識することが困難であるため、種の絶滅リスクを評価し、適切に管理するためには、遺伝的、あるいは形態的形質による高精度な交雑の検出・判別手法を必要とする。インレー湖はミャンマーの小規模な古代湖で、特に淡水魚類で高い固有性がみられる。しかし、近年の魚類相調査から、全魚種の約35%(17種)が外来種であることが判明している。Cyprinus intha(固有コイ)はインレー湖と周辺水域の固有種で、現地の重要な水産資源である。一方、同属のC. rubrofuscusの養殖系統(外来コイ)が湖周辺に水産目的で導入されている。本研究は、インレー湖の固有コイにおける外来コイとの交雑リスクを評価するために、まず固有コイの遺伝的撹乱の有無および交雑個体の形態的特徴を明らかにすることを目的とした。インレー湖周辺から得られた96個体について、MIG-Seq法を用いたゲノムワイドな多型解析を行ったところ、インレー湖のコイ類は2つのクラスターから構成され、ミトコンドリアDNAや形態的特徴から、それぞれ固有コイと外来コイに対応づけられた。しかし、両種の遺伝要素をもつ個体も存在し、その混合の比率から、F1やさらに交配が進んだ個体の存在が強く示唆された。2種の体型は幾何学的形態測定分析により区別可能であったが、交雑個体(計17個体)では両者にまたがる大きな変異を示し、交雑個体の確実な識別はできなかった。また、2種の識別形質である有孔側線鱗数は交雑個体において中間の値を示す傾向にあった。本研究からインレー湖の固有コイが実際に外来コイから遺伝的撹乱を受けていることが明らかになり、今後、遺伝的撹乱の程度やその影響予測に関する研究が必要である。