| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-455 (Poster presentation)
外来生物の侵入は生物多様性を脅かす要因の一つとして認識されている。しかし外来植物の中には、のり面保護や都市の緑地景観形成などに利用されるものが多数含まれており、一概に利用を規制できない。これらの植物については、その生態的な特性を明らかにし、適切な管理手法を確立することが求められる。
アメリカフウ(Liquidambar stiraciflua)は北米~中米原産の樹木で、並木や公園樹として広く植栽されている。本種は環境省が作成した「生態系被害防止外来種リスト」には掲載されておらず、現時点で逸出に関する情報はほとんどないが、今後、逸出・野生化する可能性の検討が必要である。本研究では、植栽されているアメリカフウの種子生産、発芽特性、実生の定着について調べ、今後の逸出・野生化の可能性を評価した。
本種が多く植栽されている広島大学東広島キャンパスにおいて、個体サイズと結実の関係を調べたところ、胸高直径20-25cm以上の大半の個体が結実しており、一つの果実には平均約80個の種子が含まれていた。段階温度法(鷲谷1997)を用いて発芽特性を調べたところ、湿った状態で保存した種子については一斉に発芽し、乾燥状態で保存した種子については発芽の遅れと高温の要求が見られたが、いずれも90%程度の発芽率を保持していた。圃場で播種を行ったところ、発芽が確認された。以上から、本種は多数の種子を生産し、乾燥種子も発芽可能であることが確認された。これらを踏まえ、夏季に植栽地周辺を調査したところ、当年生を含む実生・稚樹の生育が確認された。また植栽地周辺において植栽個体でないと考えられる成木が複数生育しており、結実も確認された。国土交通省の河川水辺の国勢調査の結果をもとに、全国での逸出状況を調査したところ、9水系で記録があった。
以上の結果から、現時点で顕在化していないが、今後本種が逸出・野生化する可能性は十分にあり、植栽地の選定などには注意を払う必要がある。