| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-463 (Poster presentation)
侵入先の生物多様性が豊かなほど、外来種の定着が困難であると言われている(生物的抵抗仮説)。その要因の一つである捕食は直接外来種の個体数を減少させるために重要であり、在来種の学習も生物的抵抗の強さに関与している可能性がある。スクミリンゴガイ Pomacea canaliculata は、日本を含むアジアに食料として持ち込まれ、その後、逃亡または放棄された個体が水田生態系に侵入し、稲の重要有害種となっている。近年、水田内でスクミリンゴガイを捕食するカラスが国内の複数の地域で観察されるようになったが、詳細な調査は行われていない。そこで本研究では、ハシボソガラス Corvus corone によるスクミリンゴガイの捕食が見られる愛媛県(松山市上難波)、福岡県(筑後市馬間田)、奈良県(生駒郡安堵町)の3地点で、捕食行動、捕食圧、被食貝のサイズと割れ方を比較した。また、愛媛県では田植えから稲刈りまでの被食貝数の推移を3年間調査した。その結果、畦畔周辺で捕食される貝の割合は、7月初旬の愛媛県では4日間当り98.2%、7月中旬の福岡県では26.2%、6月下旬の奈良県では1.1%と推定された。よって、場所によっては水田内のスクミリンゴガイの密度低減にハシボソガラスの捕食は有効であると考えられる。ただし、愛媛での捕食の時期や捕食量は年によってばらつきがあり、群れで餌場を変えている可能性がある。また、3地点とも秋に向けて捕食される貝の大きさが増した。さらに、同一水田内の生貝と捕食された死貝を比較した結果、3地点とも水田内にいる亜成貝(殻高17.5 mm以上)の中では比較的小さな貝を捕食していた。このことからカラスは、貝の成長に合わせ、その場の貝から最適なサイズを選択しているのではないかと思われる。貝の割れ方には地域差があり、奈良では愛媛・福岡よりも大きく(貝柱のある110°以上)割れている傾向にあった。割れ方に差があったのは、地域の文化として捕食行動の違いがあるためかもしれない。