| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PD-464  (Poster presentation)

人獣共通のトキソプラズマに感染した外来種2種(ネコとクマネズミ)の空間分布
Spatial distributions of two host species (cats and rats) infected with toxoplasma, a zoonotic parasite

*岡田その(東京大学), 風戸一亮(東京大学), 亘悠哉(森林総合研究所), 三條場千寿(東京大学), 所司悠希(東京大学), 松本芳嗣(東京大学), 宮下直(東京大学)
*Sono OKADA(Univ. of Tokyo), Kazuaki KAZATO(Univ. of Tokyo), Yuya WATARI(FFPRI), Chizu SANJOBA(Univ. of Tokyo), Yuki SHOSI(Univ. of Tokyo), Yoshitsugu MATSUMOTO(Univ. of Tokyo), Tadashi MIYASHITA(Univ. of Tokyo)

屋外で生活するネコ(以下,ネコ)は捕食により在来種へ直接的な被害を及ぼすほか、感染症を伝播することで人を含めた生態系に悪影響をもたらす可能性がある。トキソプラズマ原虫はネコ科動物を終宿主とする寄生虫であり、人獣共通感染症を引き起こす。これまで,病理学的な研究は行われてきたが,自然生態系におけるトキソプラズマ原虫の伝播プロセスを調べた例は数少ない。本研究の調査地である徳之島は,ネコによるアマミノクロウサギなど希少種捕食が近年明らかとなり、在来種におよぼす直接的な影響がすでに問題視されている。さらに,我々の調査により,徳之島のネコの抗体保有率は47.2%と高い値であることがわかった。そのため,感染パターンの空間分布を把握し,住民および家畜、野生動物への感染リスクを評価する必要がある。
本研究では,ネコに加えトキソプラズマの伝播サイクルにおいて重要な中間宿主と考えられる外来種クマネズミを対象に、血清からトキソプラズマ感染経験の有無を広域スケールで明らかにした。ネズミの感染状況と捕獲場所の空間分布を解析した結果、周辺の農地率が高いほど感染率も高いことが分かった。一方、農地景観のなかでネコの密度が高い畜舎で捕獲されたネズミは感染率がとくに高いわけではなかった。また空間自己相関も感染率と相関があった。ネコについては、ネコ密度が高く、クマネズミの感染率も高かった北西部の集落で感染率が高い傾向が見られた。これらの結果から、農地景観はトキソプラズマの伝播サイクルを回すのに好適な場所であり、地域の野生動物へのトキソプラズマ感染のリスクを高めていることが示唆された。


日本生態学会