| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-471 (Poster presentation)
開葉時期は温帯落葉樹の光獲得戦略において重要である。これまで群落内の同種個体間の開葉日の変化が示されてきたが、個体内のフェノロジーに焦点を当てた研究は少ない。本研究では、多雪地のブナを対象に、開葉日の差異に対する樹高と個体内の葉群高の複合的な影響を評価した。また、光獲得が制限されるブナ稚樹は、光獲得量増加のために暗い環境にある葉群が早く開葉すると考えられるため、開葉後の光環境と開葉日の関係を調べた。
福島県只見町の原生的ブナ林(下福井)とブナ二次林(楢戸)にて、2017、2018年に前者で高木・亜高木55本、後者で高木~低木99本を選び、さらに2019年に低木を前者で31本、後者で26本を観察対象に追加し、各木の樹冠を上・下部に分けて開葉日を記録した。また2019年の全観察個体の開葉後、及び夏季に低木の照度を測定した。
群落内の葉群高と開葉日の関係はある高さを閾値として変化した。
閾値以上の葉群では、樹高が低い木の開葉が早く、寡雪地の先行研究のように上層木からの被陰を回避すると考えられる。個体内では①一斉②下部から③上部から開葉の3パターンがみられ、①が普遍的であり、疎な群落の高木では②、密な群落の個体や疎な群落でも亜高木では③が確認された。これらは、①短期間に光獲得スペースを確保し同化システムを整える、②明るい環境で生育するため樹冠下部の早い開葉は自己被陰回避に寄与、③周囲から被陰されやすいため個体間・個体内で被陰されにくい樹冠上部で早く光獲得を開始すると推測される。
閾値以下の葉群では、樹高が高い個体、また個体内でも高い位置で早く開葉し、これは雪の影響によると考えられる。また、低木の中でも樹高≦閾値の個体の開葉日は、群落内のブナの開葉直後の照度とも対応しており、暗い環境にある葉群ほど早く開葉した。
以上より、多雪地のブナは、雪に対する受動的反応と被陰回避のための戦略的反応の両方によって個体間・個体内の開葉日が変化することが示唆された。