| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-473 (Poster presentation)
フェノロジーの変動を把握することは種や群集が環境変動に対して示す応答を理解するために重要である。これまで広域的なフェノロジーを観測する手法として、衛星画像を使った研究例が多く存在するが、群集全体の相対的な変動に焦点を当てているため、種毎の変動については明らかではなかった。環境変動に対する群集の応答を明確に表すためには、種毎にフェノロジーと環境要因の関係性を評価する必要がある。特に、湿原では限られた面積の中で特有の生物多様性を保持しており、環境が変化することによって湿原内でフェノロジーが変動している可能性がある。
本研究では、湿原植物を対象にどのような環境要因が花フェノロジーを規定しているかについて検証を行った。2019年に青森県八甲田山域の湿原を対象にドローンを用いて植物を識別できる高解像度な写真撮影を行った。画像データから複数種の花判別用の教師データを作成し、深層学習ライブラリTensorFlowを用いて学習を行った。学習させたモデルを用いて湿原内の花を判読を行い、異なる時期に開花する種(チングルマ・イワイチョウ・キンコウカ・ウメバチソウ)のフェノロジーの変動を明らかにした。フェノロジーと環境要因の関係性を明らかにするために、フェノロジーイベント(開花日・ピーク・終花日)を目的変数とし、環境要因(雪解け日・標高・辺縁部からの距離・傾斜角・EC・pH)を説明変数とし順序ロジットモデルで解析を行った。
結果、4種共に湿原内の雪解け日が早い場所ほどフェノロジーイベントは早くなった。また、雪解け日以外の環境要因は種毎に利用する環境要因や応答の方向性は異なった。本研究では、気候変動や湿原の面積減少によって環境要因の変化が起き、フェノロジーに変化が生まれる可能性があることが明らかになった。