| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-474 (Poster presentation)
現在、日本各地でニホンジカ(Sika deer)が分布を拡大させており、剥皮による樹木の枯死や、採食による嗜好性植物の減少など植生の衰退をもたらしている。その分布は近年高標高域にも拡大し、浅間山でも、10年ほど前から本種の侵出が確認されるようになった。侵出初期であるが、今後シカの植生影響の進行が懸念されており、その影響が顕在化する前の対策として、植生モニタリングによる植生影響の早期検出が必要である。そこで本研究では、樹木と下層植生について、浅間山におけるシカの植生影響を評価した。
調査は、標高2000m付近に位置する浅間山湯の平で行った。樹木影響を把握するため、20m四方の調査区を3ヶ所設置し2018年7月、10月、2019年5月、7月、9月、10月に剥皮痕の記録を行い、剥皮面積を算出した。また、防鹿柵の有無により下層植生の構造に変化が生じているか調べるため、2019年7月、9月、10月に50cm四方の調査枠を柵内に38個、柵外に34個設置し、開花・結実植物種名、植生高を記録した。加えて、7月に各調査枠内の出現種を記録し、多様度指数と非類似度指数を算出し、柵内の同地点で過去に採取した植生データと比較した。
剥皮調査では、2018年の全体剥皮率が48.0%であり、翌年には約7%増加した。剥皮面積は5月が最も大きく、シラビソ、ナナカマドがよく剥皮された。剥皮痕のある樹木の枯死率は67.3%であり、胸高直径の小さい個体で多いことから、剥皮が今後の樹木更新を妨げる可能性が示唆された。植生調査では、柵内の植生構造は18年前のデータと比較し、顕著な変化が見られなかったことから、防鹿柵の設置は、シカによる影響が顕在化する前に行われたと考えられた。一方で、柵外で開花・結実率が柵内より有意に減少した種が全38種中6種確認されたことから、今後柵外でシカの食圧により繁殖が抑制される可能性が考えられた。