| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-475 (Poster presentation)
かつて里山に広く見られたカヤ場など耕作履歴の無い「非耕作地」の半自然草地は、草原性希少種の宝庫であった。近年、この「非耕作地」の半自然草地が減少する一方、かつて農地だった場所が耕作放棄されたものの草刈り管理だけは行われている「耕作跡地」の半自然草地が増えている。このような「耕作跡地」の半自然草地の生物多様性に関する研究は、「非耕作地」の伝統的な半自然草地と比べると少ない。そこで本研究では、耕作履歴の有無が半自然草地の植物の種多様性と系統的構造に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
伝統的農地景観が広がる山梨県小菅村において、耕作履歴の有無や草刈り管理の形態によって半自然草地を10タイプに分けた。1×1mプロットを各タイプに12-22個設置し(計130プロット)、2019年中に2-3回植生調査を行った。全体で309種、県レベルレッドリスト種39種を記録した。
種数、希少種数、系統的多様性(Faith’s PD)は、非耕作地の方が耕作跡地よりも高かった。しかし、帰化植物の出現率は 、耕作跡地で高い傾向を示した。耕作跡地の半自然草地の中には耕作放棄後40年以上経過した場所さえある。それでも種多様性が非耕作地のレベルにまで回復していないことから、過去の耕作が種多様性に不可逆的な負の影響を与えていると考えられる。また、群集構造の系統的な偏りの程度を示す、NTI(nearest taxon index)は、非耕作地で系統的過分散(群集がランダムに予想されるよりも、系統的に離れた(遠縁)種で構成)、耕作跡地においては、系統的クラスタリング(近縁種で構成)のパターンが生じていた。したがって、耕作跡地には、耕作放棄後も耕作の影響に適応的な特定の分類群が多い一方、非耕作地の群集では系統的な制約が少なく、伝統的草地管理に伴う攪乱によって様々な生活型の種が生息すると考えられる。