| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-477 (Poster presentation)
樹木の多種共存については、古くから様々な理論が構築されてきた。それら共存理論の多くは種をベースとしているが、樹木の競争は種ではなく個体間に生じる、いわば隣接する個体との「対戦」である。さらに、隣と呼べる範囲は樹木の成長に伴い広がり、対戦相手が移り変わるはずだ。従って、樹木の競争とは生活史を通した近傍個体同士の対戦の積み重ねであるといえる。本研究は、調査地である温帯混交林のカヌマ沢渓畔林試験地に生育する高木・亜高木種を対象とし、生活史段階を種子から林冠に達するまでの7段階に区分した上で段階別に対戦範囲を定義し、対戦種の組み合わせと頻度を数え上げた。
その結果、同種対戦の割合は必ずしも高くなく、時に対戦相手が不在である孤立した個体も見られた。さらに、対戦頻度からは、同じ2種の組み合わせであってもどちらを対戦相手と見なすかによって、片方にとっては主要な対戦相手であるが、もう一方にとっては特別目立った対戦相手ではないという非対称性がみられた。ロトカ・ヴォルテラ競争式を源流とする理論では、林分内の全ての種の組み合わせが考慮され、多種共存はその厳しい条件のもとにしか成立しない。熾烈な種内競争は多種共存の条件であるが、本試験地において同種対戦の割合が低い場合も少なくなかったのは、非対称な対戦が多種共存に要する厳しい条件を緩和しているためと考えられる。