| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-480 (Poster presentation)
極端な気象現象が個体群動態に影響を及ぼすことは知られているが、どのような過程や条件の下で、どの程度の影響が生じるのかに注目した研究はほとんど無い。そこで本研究では、日本ではマングローブ樹種が、極端な気象現象の一つである台風が通過する地域に分布することに注目し、個体群動態を規定する過程の一つである散布体の分散が、台風から受ける影響とその影響の程度の条件による違いを定量的に評価した。現地調査は、八重山諸島の西表島において、2018年5月~7月に実施した。この期間の台風の通過回数は2回であった。西表島の島内で、マングローブ林からの最短距離の異なる10カ所の砂浜(距離により近、中、遠の3階級に分けられる)に調査地点を設置し、およそ10日に1回の頻度で、漂着したオヒルギとヤエヤマヒルギの胎生種子を収集した。収集した計9654個の胎生種子を計測し、大きさに基づいて3階級(大、中、小)に区分して、調査地点ごとの漂着量を集計した。また、台風通過前後の漂着量の増減率を、胎生種子の大きさの階級ごと、マングローブ林からの距離の階級ごとに算出した。その結果、台風通過後には、両種のすべての大きさの階級で、遠距離では数百倍もの漂着量の増加が確認された。その一方で、中距離では0.5~0.1倍程度の漂着量の減少が、近距離では0.5~数倍程度の漂着量の増減が確認された。遠距離における増加率は中程度の大きさの胎生種子において最も高かった。これらの結果は、分散に対する台風の影響の程度は、散布体の供給源からの距離や散布体の形質によっても大きく異なりうるということを示している。これは、個体群間を行き来する個体の量や質に台風のような極端な気象現象が与える影響は、既存の枠組みでは予測が難しいものであることを意味するのかもしれない。このような分散の量的、質的変化は、個体群間の連結性の変化を引き起こすことで、個体群動態にも影響を与えうると考えられる。