| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PD-488  (Poster presentation)

筑波山ブナ林における2005年~2019年の変化と気候変動影響
Changes of beech(Fagus Crenata) forests on Mt.Tsukuba from 2005 to 2019 and impact of climate change

*安保絵梨(東京農業大学), 津山幾太郎(森林総研・北支), 中園悦子(東大生研), 松井哲哉(森林総研), 竹内渉(東大生研), 田中信行(東京農業大学)
*Eri ABO(Tokyo Univ. of Agriculture), Ikutaro TSUYAMA(HRC,FFPRI), Etsuko NAKAZONO(IIS,U-Tokyo), Tetsuya MATSUI(FFPRI), Wataru TAKEUCHI(IIS,U-Tokyo), Nobuyuki TANAKA(Tokyo Univ. of Agriculture)

 気候温暖化に伴う生物の潜在生育域の変化予測などシミュレーション研究は多いが、実際に森林生態系で温暖化影響を検出した事例は少ない。生態系は複雑であるため気候変動の影響を検出することは容易ではない。
 本研究では、社寺林・国定公園として保護され老齢自然林が残る筑波山(山頂877ⅿ)の南斜面を調査地とした。南斜面は、低標高に暖温帯常緑広葉樹林が、標高約600ⅿ以上に冷温帯落葉広葉樹林が広がり、温暖化の影響が現れやすい森林帯の境界が存在する。山頂付近に設定された1haプロットでDBH15㎝以上の全樹木の調査を2008、2013、2018年に実施し、樹木個体群の10年間の変化を解析した。また、1haプロットと標高500~850mに設定された20.4haプロットで、 2019年にドローンを用いた撮影を行い、2005年撮影の空中写真オルソ画像と比較し、14年間の樹冠面積の変化を評価した。
 1haプロットでブナは、小径木が少なく、過去10年間で幹数が減少、大径木が増加した。胸高断面積BAは全体の約35.5%と全樹種の中で最大を占めるが、過去10年間で減少し、相対成長率RGR(BA)は0.011/yearと全体平均(0.022/year)の半分であった。それに対しアカガシは、小径木が多く、過去10年間で小径木などの幹数が増加、BAも増加、RGRは0.045/yearと全体平均の2倍であった。
 空中写真による樹冠判読では、1haプロット及び20.4haプロットでアカガシが過去14年間(2005~2019年)にそれぞれのプロットに対し4.50%、4.36%増加した。これは、0.321%/年、0.311%/年の増加率である。20.4haプロットでは、各標高帯でもアカガシ樹冠面積が増加した。
 筑波山ブナ林における変化は、過去10~14年間で、冷温帯落葉広葉樹であるブナが更新や成長の面で衰退傾向にあり、一方、暖温帯常緑広葉樹であるアカガシがブナ林域まで分布を広げ旺盛な成長をしていることが示された。今後も温暖化が進行すると、ブナの生育限界気候条件に達し、ブナが一層衰退し、アカガシ林に移り変わっていくと考えられる。


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