| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PD-489  (Poster presentation)

微地形・土壌水分量が実生動態を通してコナラからシラカシの遷移に与える影響
Effects of microtopography and soil moisture content on seedling dynamics of Quercus serrata and Q. myrsinaefolia and hence their succession

*西脇花恵, 立木佑弥, 鈴木準一郎(首都大学東京)
*Hanae NISHIWAKI, Yuuya TACHIKI, Jun-Ichirou SUZUKI(Tokyo Metropolitan Univ.)

放棄されたコナラ林では、コナラからシラカシへの優占種の遷移が広く知られている。首都大学東京構内の松木日向緑地は、この遷移の過程にあり、シラカシの実生のみが定着し稚樹に成長している。この緑地では、谷、東斜面、西斜面、尾根という微地形間で次世代を担う実生の数が異なる。コナラは谷で少なく、シラカシは谷で多く尾根で少ない。よって、遷移の進行は、谷で速く、尾根で遅いと考えられる。本研究では、この2種の実生分布が微地形間で異なる要因を明らかにすることを目的とした。
まず、実生分布の微地形間の違いが生じる成長段階として、発芽と実生の生残という段階に注目した。そこで、松木日向緑地で各微地形を含むように実生調査区を設定し、コナラとシラカシの実生の出現と生残を調査した。また、それに隣接する播種区を設定し、2種の堅果を播種し発芽率を調査した。当年生実生の出現数および生残率、播種した堅果の発芽率を微地形間で比較した。その結果、コナラでは生残率が谷で低い傾向、シラカシでは当年生実生数と発芽率が谷で大きく尾根で小さい傾向が見られた。この傾向は、2種の実生分布と一致した。よって、コナラは実生での生残、シラカシは発芽の段階で見られた微地形間の違いが、遷移進行の不均質性の原因である可能性が示唆された。
次に、微地形で異なる環境要因である土壌水分がコナラ実生の生残に影響したと考えた。谷での生残の低さから、コナラ実生は土壌水分が多いと成長しにくいと予測した。そこで、コナラとシラカシの実生を、異なる給水頻度で栽培した。その結果、コナラでのみ給水頻度の効果が見られ、予測とは逆に給水頻度が高いほど成長した。これより、緑地の谷でのコナラ実生の生残の低さは、土壌水分に起因するとは言えなかった。実生動態の微地形間の違いを生む環境要因の特定には、環境条件のより詳細な調査とそれを再現する実験が必要である。


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