| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PD-493 (Poster presentation)
ササは長寿命一回繁殖型植物であり、森林における樹木更新の主要な阻害要因として知られている。ササが一斉開花・枯死すると、林床の光環境の改善や大量の種子生産によるネズミ類の個体数の増加などにより、樹木の実生更新に影響が及ぶことが予想される。愛知県北設楽郡段戸保護林(以下、段戸)一帯では、ササの一種であるスズタケが2016年に前開花、2017年に一斉開花・枯死した。スズタケの実生更新特性に加え、ササ枯死による林床環境や樹木の実生群集の変化を調べる貴重な機会である。そこで本研究では、段戸においてスズタケの前開花が確認された2016年からスズタケ一斉枯死2年後の2019年の4年間、スズタケ幹密度、開空度、ネズミの個体数とともにスズタケおよび樹木の実生の継続した観察を行い、スズタケ一斉開花・枯死後に林床の環境が変化し、樹木の実生更新が促進されるという作業仮説を検証した。一斉開花前から一斉開花・枯死後にかけてスズタケ幹密度に変化は見られなかったが、開空度は増加した。枯れ稈は残存しているが、枯れ葉が落ちたことによる変化と考えられる。ネズミ類の個体数は2017年から2018年にかけて大きく増加したが、2019年には急激に減少した。餌となるスズタケ種子の大量生産により一時的に増加し、餌資源の減少に伴い個体数も減少したと思われる。樹木の当年生実生は2016年から2019年にかけて増加傾向にあり、光環境の好転によって、実生更新が促進されていることが示唆された。またスズタケの当年生実生は2017年から出現が確認され、2018年、2019年にかけて出現数は増加していたことから、スズタケの種子は1年後から発芽を開始し、その後は数年間発芽を継続すると考えられる。今後はスズタケの枯れ稈の倒壊に伴うさらなる光環境の好転やスズタケ実生の出現・成長が木本実生に影響を与えると考えられるため、継続的な調査が必要である。