| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-001  (Poster presentation)

貝類粘液を介した種間相互作用網“ネバネバネットワーク”の提唱
Advocating a "Sticky Network" ~interspecific interaction network via snail mucus~

*和田葉子(神戸大学 理), 佐藤拓哉(神戸大学 理), 岩谷靖(弘前大学 理工)
*Yoko WADA(Kobe Univ. Sci), Takuya SATO(Kobe Univ. Sci), Yasushi IWATANI(Hirosaki Univ. Sci and Tech)

群集生態学の目覚ましい発展には、岩礁潮間帯で多数展開されてきた実証実験が大きく貢献してきた。岩礁潮間帯は「貝のパラダイス」とも称され、非常に多種多様な貝類が生息している。貝類はみな、“這う”ことで基質上を移動しており、この“這う”という移動手段をとるためには“粘液”の分泌が必要不可欠である。粘液には、這った個体の情報が含まれており、これまでに、貝類が捕食者や被食者といった他種、雌雄・体サイズが異なる同種他個体の粘液跡に反応していることが報告されている。一方で、これらの先行研究は行動レベルの現象理解に終始している。各個体が残す粘液に応じた行動変化は、創発的に群集レベルの構造や動態理解にどの程度貢献するのかについては全く明らかにされていない。そこで本研究では、貝類の粘液を介した種間相互作用網“ネバネバネットワーク”の重要性を提唱することを目指し、その第一歩として、一つの岩礁レベルで一日にどれほどの粘液量が塗布されているのかを定量的に評価することを目的とした。そのために、野外に8台のカメラを設置し、8つの岩を対象に24時間、タイムラプス撮影を行った。撮影は季節ごとに行い、情報工学的手法を援用して、貝類の24時間当たりの移動軌跡から移動距離を算出した。さらに、室内実験により、移動距離と塗布粘液量の関係式を種ごとに作成し、野外での粘液塗布量を全種について算出した。その結果、貝類は、野外岩盤上を、24時間で平均約50cm移動し、中には移動距離が1m以上になる個体がいることが分かった。また、岩面積の80%程度が粘液で覆われてしまうこともあり、岩礁潮間帯に存在するほとんどの基質は、大抵の時間、貝類の粘液で覆われていると考えられた。これに加え、家痕の有無を含めた種の特性や種内の季節間変異についても評価し、ネバネバネットワークの重要性について議論する。


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