| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-002 (Poster presentation)
トキの野生復帰を支えるためには、トキがいつどのような環境で何を食べているのかといった基本的な情報が必須である。その中で期待されているのが、糞に残された未知の餌生物DNAをバーコーディングによって解明しようとする試みである。これにより、これまで知られていた以上に様々な環境に生息する小型の昆虫を高頻度で利用することが明らかにされてきた。例えば、昆虫の中でも、ゴミムシ類(甲虫目オサムシ科)のDNA配列が多く検出され、それらが重要な餌生物群であることがわかっている。しかしながら、ゴミムシ類のバーコードライブラリが不十分なため同定の精度は低い。同時に、演者らのこれまでの研究によって環境の変化に対するゴミムシ類の応答は種レベルで異なることがわかっており、トキの効果的な餌場整備の実現には精度の高い種間関係の解明が求められる。そこで本研究は、佐渡島に生息するゴミムシ類のDNAバーコードライブラリを構築し、そのうえでより精度の高い餌生物種の解明を目指した。ライブリの構築に向けて、既存の資料・調査データをもとに、佐渡に生息実態の記録があり、かつトキの採餌場所と生息場所が一致する種111種を対象として選んだ。対象種のバーコード情報を得るため、2015年以降佐渡で採集され冷凍保存された試料と、1983〜2014年に全国各地で採集された乾燥標本をもちいた。これまで対象種の約85%のサンプル収集が終了し、211のバーコード配列を得ることができた。それらと、既存のトキの糞から抽出した餌生物DNAの塩基配列データと照合した結果、3配列3OTUが属レベル、46配列14OTUが種レベルまで確からしい推定ができた。一方、7配列は近縁群まで絞り込むことができなかった。本研究によってライブラリ構築にあたっていくつかの課題が見えてきたと同時に、参照データの充実はより精度の高い同定を可能にしたと考えられた。