| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-004 (Poster presentation)
砂浜は、海陸の境界に位置するため環境傾度が著しく、不安定な生息基質(砂)と海況(波)の影響を強く受ける。そのため、砂浜性生物の垂直分布は物理的環境によって大きく制限され、時々変化する環境に対応して生物分布も迅速に変化する必要がある。日本海沿岸の新潟では、埋在性ヨコエビ類の一種ナミノリソコエビ(Haustorioides japonicus)は、波浪による砂浜の侵食と堆積に対応して常に汀線域に位置するように生息場所を移動する。これは、汀線域にのみ実現される、埋在に適した底質硬度と餌環境(波で打ち寄せられる微細藻類やデトリタス粒子を摂食)に対応し、鳥類や魚類の捕食を回避する行動だと理解できる。新潟では潮位差が0.3mと小さいが、潮位差の大きな地域では潮位変動そのものが環境条件の撹乱要因となる可能性がある。そこで、主にナミノリソコエビと近縁種に注目し、潮汐とマクロベントスの垂直分布の変化を調べた。
調査では基本的に満潮・中潮・低潮時に、打上帯から水深50cm地点まで1〜20m刻みでマクロベントスの定量採集と底質環境要因の測定を行なった。潮位差2mの北九州ではナミノリソコエビが出現した。唐津では汀線を追いかけて潮間帯全域を移動した。一方、宮地では高潮帯から中潮帯までの移動にとどまった。北海道東部の斜里では潮位差0.8cmであり、キタナミノリソコエビ(H. munsterhjelmi)が汀線を追いかけて潮間帯全域を移動すると考えられた。一方、潮位差が5m以上となる韓国では、H. koreanus(済州島)およびH. nesogenes(莞島)ともに移動を示す顕著な分布変化は見られなかった。3種の好適な底質環境に違いは認められないため、観察された移動範囲の違いには浜毎の汀線の移動速度が影響していると考えられた。他のマクロベントスの分布と合わせて考察する。