| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-006 (Poster presentation)
世界各地の沿岸域において、気候変動が生物の群集組成や多様性、生態系機能に影響をおよぼす可能性が指摘されている。本研究では、瀬戸内海で得られた過去の行政調査データを用いた解析を行い、気候変動が閉鎖性海域に生息する底生動物の多様性と生産性におよぼす影響を評価した。
1980年代以降に得られた広域総合水質調査データ(環境省)を用いた解析の結果、瀬戸内海の底層水温は多くの海域で経年的に有意な上昇を示した。1月、5月、7月および10月を比較すると、水温上昇速度は10月が最大で(全海域平均:+5.82℃ / 100年)、夏~秋の高水温化が広域で生じていた。次に、瀬戸内海425地点で1980年代以降10年おきに実施された第1~4回瀬戸内海環境情報基本調査(環境省)のデータを用いた解析の結果から、1990~2010年代に底生動物の多様性と密度が広範囲で増加していたことがわかった。密度の増加は大阪湾、備讃瀬戸、燧灘、関門海峡周辺等で顕著で、多様性の増加はさらに広範囲で生じており、要因の1つとして底質TOCの低下による底質環境の改善が挙げられた。クラスター解析の結果、1990~2010年代に多様性と密度が高い群集が分布を拡大していた。また、環境勾配-底生動物の出現頻度解析を行った結果、泥分と底質TOCに対して多くの種が単峰分布を示し、特に底質TOCに鋭敏に応答する種が多かったのに対し、泥温と水深に対しては多くの種がはっきりとした選択性を示さなかった。
以上の解析結果から、水温上昇(例:+2.0~3.1℃ / 100年;気象庁2008)の効果単独で埋在性底生動物への致死的影響が生じる可能性は低く、その影響は一部の種や群集タイプに限定されると推測された。一方、気候変動に伴って底質の有機物量や粒度組成、貧酸素発生期間等の変化が生じた場合には、底生動物の多様性や現存量により顕著な影響を及ぼすと考えられた。