| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-008 (Poster presentation)
ナナフシ類は移動性が低いため,しばしば鳥や哺乳類などの捕食者の格好の餌となっているが,卵の天敵はよくわかっていない.一部のグループでは卵を木に産み付けたり土中に産みこんだりするものの,大部分は卵を樹上から直接地表面に産み落とすため,その天敵の多くも地表面でみられるはずである.卵を利用する昆虫の観察例はほとんどないが,セイボウ科の寄生蜂が知られている他,蓋帽のある卵はアリ散布植物の種子のようにアリによって運ばれるという報告がある.ナナフシ類は低緯度地域でその種多様性も個体密度も高いため,その卵を利用する捕食者や寄生蜂の多様性も高いと考えられる.
本研究では,ベトナム北部のククフォン国立公園でナナフシ類の飼育によって得た卵を設置し,集まる昆虫の構成と利用様式を調査した.その結果,フィールドカメラを用いた観察では,設置した卵をその場で捕食する昆虫(カマドウマ類),蓋帽を齧る昆虫(小型のアリ),蓋帽の有無にかかわらず卵を持ち去る昆虫(中型,大型のアリ)が観察された.蓋帽のある卵(77%)の方がない卵(32%)に比べて2倍近く捕食者によって食べられるか,持ち去られる割合が高かった.卵寄生蜂に卵を与えて寄生行動を観察したところ,彼らも卵を物陰に運んでから産卵した.落ち葉をかけた卵が運ばれる割合は落ち葉をかけていない卵の0.6倍と低かったことから,寄生蜂が卵を隠す行動はアリなどの捕食者を回避する効果があると考えられる.