| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-022  (Poster presentation)

サンゴ礁魚類群集で観察されたエッジ効果と競争と分散の種間トレードオフ
Edge effects and interspecific tradeoffs between dispersal ability and competitive ability in coral reef fish community: a behavioral approach

*服部昭尚(滋賀大学)
*Akihisa HATTORI(Shiga Univ.)

 一般的には生息地面積が大きいほど生息種数が多くなるが,移動分散力が高い生物では生息地群の総面積が重要であろう。しかし,石垣島白保サンゴ礁では,面積がほぼ同等なら,単一大リーフよりも中小リーフ群でスズメダイ科魚類の生息種数が多いことがわかった。中小リーフ群ではエッジ総延長が長くなるため,エッジスペシャリストが増えるのかもしれない。隣接する 6つの中小リーフに注目し,ドローン(DJI社 Phantom4 Pro+)によるサンゴ礁の空撮画像を詳細な景観マップとして利用し,生息個体数が多い10種を対象に,スノーケル潜水によって5分間の個体追跡行動観察を繰り返し,個体の行動圏と種間相互作用を調べた。さらに,個体のリーフ内部(インテリア)と外側,境界の滞在時間(秒数)を計測し,滞在時間の長さからインテリアスペシャリストとそれ以外(エッジスペシャリスト)に分類した。その結果,藻食性の2種(ハナナガスズメダイ,クロソラスズメダイ)と枝サンゴのポリプ食の1種(アツクチスズメダイ)が種間縄張りを持つ競争優位種であり,インテリアスペシャリストであった。プランクトン食の3種(ミスジリュウキュウスズメダイ,デバスズメダイ,クラカオスズメダイ)は複数リーフを利用する移動分散優位種であり,エッジスペシャリストであった。雑食性3種(ネッタイスズメダイ,ルリスズメダイ,ミナミイソスズメダイ)も複数リーフを利用するエッジスペシャリストであった。中小リーフ群では,競争と移動分散の種間トレードオフが存在することにより生息種数が多くなり,競争優位種がインテリアスペシャリスト,移動分散優位種がエッジスペシャリストであると推察された。リーフを半球と捉え,インテリアの体積とエッジの体積を計算すると,いつも中小リーフ群がよいとは限らないことがわかった。生息地を立体的に捉えれば,エッジ概念には修正が求められよう。


日本生態学会