| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-030 (Poster presentation)
鯨類は卓越した潜水能力を持ち、ハクジラ亜目で最大のマッコウクジラは1時間半以上の潜水記録がある。鯨類はなるだけ長く潜るために、潜水中に心拍数が急激に減少する潜水反射によって酸素消費が抑えられるなど、生理的な適応が見られる。しかし、これまで自由遊泳中の鯨類の心拍数を測定することは難しく、自然環境下の知見はほとんどない。本研究では動物装着型心電計を吸盤で体表に貼り付けることで、自然環境下の鯨類に適用可能な非侵襲的な心拍測定手法を開発し、飼育下のマイルカ科4種(マダライルカ2個体、カマイルカ3個体、ハナゴンドウ6個体、オキゴンドウ1個体)の心拍数を測定することに成功した。
その結果、水面での静止時に、呼吸に伴って心拍数が上下する呼吸性洞性不整脈(RSA: respiratory sinus arrhythmia)が見られることが分かった。RSAは4種全てで見られたが、マダライルカ2個体中1個体、カマイルカ3個体中1個体、ハナゴンドウ6個体中2個体では、見られなかった。呼吸性洞性不整脈は副交感神経活動(鎮静状態を導く)の指標として広く用いられている。RSAの際には4種全てで心拍数が大きく変動した(オキゴンドウ、平均33拍/分、範囲 20〜51拍/分、 n=1個体;ハナゴンドウ、54±9拍/分, 範囲 28〜99拍/分、n=4個体;カマイルカ、94±19拍/分、範囲 53〜145拍/分, n=2個体;マダライルカ、88拍/分、範囲 41〜126拍/分、 n=1個体)。また、哺乳類の体重から予想される安静時の心拍数と同様に、RSAの際の4種の平均心拍数は体重に従って減少した。これらのことは、本研究により安静時の測定値が得られたことを示唆する。
今後、本研究で確立した手法を用いて、自由遊泳中の鯨類の潜水反射の強度や活動度と心拍数との関連を調べることが可能になった。また、緊張や弛緩の指標としても有用であることが示唆された。