| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-032  (Poster presentation)

ハダカデバネズミの社会と認知
society and cognition of the naked mole rat

*Masanori YAMAKAWA(SOKENDAI)

動物は新奇環境において周囲を歩き回る、または嗅ぎ回るなどの探索行動を行い、その環境の空間情報を把握してから、次の行動に移る。真社会性齧歯類ハダカデバネズミは餌となる植物の根を見つけるために地中で穴掘りを行い、地下に長大な巣穴を形成することで知られる。そのため、ハダカデバネズミはある程度の空間認知能力を持っていると期待される。また、女王の存在、特に匂いによって穴掘り行動を含めた労働が促進されることが知られている。しかし、ハダカデバネズミの空間認知能力および探索行動について調べた例はほとんどない。本研究では、ハダカデバネズミの空間認知能力の有無、穴掘りの指向性の有無、女王の存在が探索行動に与える影響について調べることを目的とした。
   室内実験を行い、直方体の飼育ケージ4つを環状にトンネルでつないだ構造において、各実験につき4個体を入れ、最初の5分間の行動を記録した(Kutsukake et al. (2012)の実験映像を分析)。女王が存在、不在、匂いだけの三種類で社会的文脈を区別し、探索行動についてはケージ間の移動回数を指標とした。野生の巣穴は外側に広がっていく傾向にあるため、各ケージの最も外側に位置する角を掘る頻度が他の角よりも高いという予測を立てた。また、女王の匂いによって労働が促進されることから、女王の匂いがより活動的な状態を誘発するのではないかと考え、探索行動についても女王の存在、特に匂いによって移動が促進されるという予測を立てた。
   結果、最も外側の角を掘る頻度が他よりもかなり高く、予測通りとなった。この結果から、ハダカデバネズミは空間認知能力を有し、巣穴を外側に広げようとする指向性があることが示唆された。探索行動については、移動回数が女王匂い、女王不在、女王存在の順に多いことがわかり、予測とは異なる結果となった。これは不安やストレスなど個体の心理状態と関係しているのかもしれない。


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