| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-033  (Poster presentation)

キタオットセイの異なる三次元潜水パターンは効率的な採餌のためか
Foraging strategy of Northern fur seals by using different 3D diving behavior

*櫻木雄太(北海道大学), Vladimir N BURKANOV(NOAA), Russel D ANDREWS(University of Alaska, MarEcoTel), 三谷曜子(北海道大学)
*Yuta SAKURAGI(Hokkaido Univ.), Vladimir N BURKANOV(NOAA), Russel D ANDREWS(University of Alaska, MarEcoTel), Yoko MITANI(Hokkaido Univ.)

 海洋高次捕食者である鰭脚類は水中という三次元空間の中でパッチ状に分布する餌生物を捕食する。また,個々の潜水はその特徴からタイプ分別することができ,採餌や移動,休息といった目的に応じていることが示唆されている。限界値の定理から,高密度な餌パッチ内ではパッチ滞在時間を長くすることで効率的に採餌すると考えられているため,潜水タイプも餌パッチの質や分布に応じていることが予想されるが,三次元空間において潜水タイプと効率的な採餌の関係性は明らかにされていない。
 そこで本研究では,子供への授乳のために効率よく採餌をしていると考えられる授乳期間中のキタオットセイ(Callorhinus ursinus)の母親を対象とし,効率的な採餌と潜水タイプの関係性を解明することを目的とした。2006年8月に千島列島ロブシュキ島で3個体に取り付けた3Dロガー(地磁気,加速度,深度,速度)とGPSロガー(浮上時の緯度経度)の記録から三次元遊泳軌跡を再構築した。そして,餌パッチの質と分布を反映すると考えられる餌探索行動(VRS)の識別と各潜水のタイプ分別を行い,その関係性を調べた。
 VRSには半径約6mで1回の潜水中に生じる小VRSと,半径約3kmで複数の潜水を含む大VRSが存在していた。各潜水は6種類の潜水タイプ(Type1~6)に分けられ,Type1~3は採餌,Type4と6は移動,Type5は休息と関係していたと考えられた。また,潜水タイプごとにVRSとの関係性は異なっており,採餌潜水のうちType1は大VRS外でよく生じる直線的で移動性の高い潜水タイプであったのに対し,Type2は大VRS内でよく生じるその場に長く留まるような潜水タイプであったことが明らかとなった。
 これらの結果は限界値の定理からの予測を支持し,本種は効率的に採餌するために周囲の餌生物の分布様式に応じて潜水タイプを切り替えることが示唆された。


日本生態学会