| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-038  (Poster presentation)

ツキノワグマの交尾期における近接行動
Asiatic black bear associations during the mating season

*瀧井暁子(信州大学), 日吉晶子(信州大学), 高畠千尋(北海道大学), 山本俊昭(日本獣医生命科学大学), 泉山茂之(信州大学)
*Akiko TAKII(Shinshu University), Akiko HIYOSHI(Shinshu University), Chihiro TAKAHATA(Hokkaido University), Toshiaki YAMAMOTO(N.V.L.U.), Shigeyuki IZUMIYAMA(Shinshu University)

ツキノワグマは単独性の大型哺乳類だが、春から秋にかけて性別にかかわらず接近することがある。クマ類では、交尾期に雌雄が数日間共に行動することやオスがメスを占有する行動をとるとの報告があるが、ツキノワグマの交尾期の行動については不明な点が多い。発表者らは、長野県の中央アルプス北麓におけるGPSテレメトリー調査から得られたツキノワグマの行動データから交尾期を推定し、交尾期における1)近接行動のパターン、2)交尾期における雌雄の行動圏、3)交尾場所について検討した。2010〜2018年にGPS首輪を装着したのべ113頭(オス66頭、メス47頭)のうち、異性間で2時間以上の持続的な近接行動を確認した64ペアについて分析した。長時間の近接行動は4〜11月に確認されたが、24時間以上の持続的近接が見られたのは5月16日から9月12日まであった。2日以上継続した近接行動は15例確認し、最大近接時間は約12日間だった。持続的近接時の行動は、雌雄が局所滞在する、あるいは移動時に共に行動、追随する、いずれかの行動を伴った。雌雄共に複数の異性と持続的な近接をしていた。雌雄それぞれ1対1の近接行動のほか、近接行動をしていた雌雄に別個体の成獣オスが接近し、相手が入れ替わった事例や複数の成獣メスに1頭の成獣オスが持続的に近接した事例を確認した。血縁解析から、持続的近接ペアのほとんどが非血縁個体であり、近親交配を回避していた。成獣オス1頭は、7〜8月にかけて複数のGPS個体と長時間近接していたが、GPS個体と近接していない期間でも局所的な滞在(6〜104時間)をほぼ毎日行っていた。これらの事例から、ツキノワグマの配偶システムが乱婚であること、交尾行動は夏季に最も活発であることが示された。


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