| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-041  (Poster presentation)

鱗食性シクリッドで見られる利き獲得の学習効果には臨界期がある
The scale-eating cichlid fish show a critical period in the learning effect in aquisition of the behavioral laterality

*竹内勇一(富山大学), 小田洋一(名古屋大学)
*Yuichi TAKEUCHI(Univ. Toyama), Yoichi ODA(Nagoya Univ.)

複雑な行動の確立には、身体発達と早期経験の相互作用が重要である。利きはヒトを含む様々な動物で認められ、精巧で力強い運動に不可欠であり、生存率を向上させる重要な形質と考えられている。利きは発達過程で、いつ・どのように獲得されるのだろうか?この問いに答えるために、明確な利きをもつことで知られる、アフリカ・タンガニイカ湖の鱗食性シクリッド科魚類Perissodus microlepis(鱗食魚)を用いて、利きの発達プロセスを調べた。すなわち、ふ化後に個別隔離して固形飼料のみで飼育した、鱗食未経験の①幼魚(生後4ヶ月)、②若魚(生後8ヶ月)、③成魚(生後12-14ヶ月)で、捕食行動実験を数日おきに5回繰り返して行い、餌魚への襲撃方向の変化を観察した。①幼魚では、左右非対称な顎形態と対応する利き側からの襲撃率が、実験回数とともに増え、実験5回目において16個体中13個体で有意な襲撃方向の偏りを示した。一方で、②成魚では利き側からの襲撃率と実験回数における相関関係は認められず、また実験5回目において10個体中全ての個体で襲撃方向はランダムなままで利きを獲得できなかった。つまり、鱗食魚の利き獲得には幼魚期における鱗食経験が大きく影響すると分かった。さらに、幼魚では利き側からの襲撃成功率は逆側からよりも有意に高いことから、襲撃方向と捕食結果を関連付けて学習することで襲撃方向が利き側に偏っていくと考えられるが、成魚ではその差が見られず、襲撃方向を学習する価値がないと示唆された。加えて、③若魚では11個体中5個体が襲撃方向の偏りを獲得し、成長過程と利き獲得の関係性が示された。以上より、鱗食経験による利きの学習効果は、幼魚期にはあって成魚期にはなく、利きの強化可能期間(臨界期)は生後4ヶ月~8ヶ月であることが明らかとなった。


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