| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-042 (Poster presentation)
寄生虫による宿主操作は、エネルギー流や栄養カスケードの強度、食物網の構造など、生態系にさまざまな影響を与える。ハリガネムシ類は、陸域の終宿主の入水行動を生起することで、間接的に河川に住むサケ科魚類個体群に大きな季節的エネルギー補償をもたらす。一方、ハリガネムシ類が宿主操作を起こす季節における入水行動の日内変動は、サケ科魚類個体の摂餌戦略に影響を与えると予想される。しかし、入水行動の日内変動を定量的に評価した研究はこれまでにない。
ハリガネムシ類の宿主操作に関する先行研究では、活動量と正の走光性の上昇により入水行動が生起されることが示唆されている。そこで本研究では、ハリガネムシ(Paragordius varius)を実験的に感染させたヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)の歩行量を24時間継続して計測し、非感染のコオロギと比較することで、ハリガネムシ感染に伴う歩行量の日内変動の変化について評価した。その結果、コオロギは、感染の有無に関わらず、薄明薄暮に歩行量を上昇させる傾向がみられた。一方、成熟したハリガネムシのみに感染していた宿主個体は、一日を通して非感染個体よりも歩行量が大きいものの、特に薄明薄暮と夜間の歩行量上昇が顕著であった。すなわち、ハリガネムシは宿主のコオロギ本来の活動スケジュールに沿いながら、宿主が活動量を高める時間帯により強い操作を加えているのかもしれない。他方、発達段階が異なる複数のハリガネムシを体内にもつ宿主個体は、一日を通して歩行量が小さく、日内変動も小さい傾向が見られた。これは、成熟したハリガネムシと未成熟なハリガネムシの間での、宿主体内における“行動操作に関する対立”に起因する可能性がある。本発表では、このような活動パターン変化の妥当性やそれが生じる分子的な仕組みについて、関連研究を踏まえて議論する。