| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-048 (Poster presentation)
周波数帯の重複する複数の鳴き声が存在する際、それらはお互いにとってノイズとなり正確な情報を伝えることが難しくなるため、負の影響を及ぼし合う。そのためニッチをめぐる競争と同様に、周波数を巡る競争が様々な種間で起こりうる。特にカエル類の多くは、繁殖地で合唱を行って繁殖すること、繁殖に適した場所が種間で似通っていることなどから、周波数の似た他種の存在が有害なノイズになる状況が数多く生じる。また、東南アジアなど熱帯域ではカエル類の多様性が高く、温帯域と比較して多くの種類が同所的に生息している。加えて、熱帯域の中でも赤道近くでは気候の季節変化も少ないため、繁殖期が他種と大きく重複する。このような環境では、自身の鳴き声を特殊化させることで他の種の鳴き声によるマスクから逃れること、他の種が鳴いていないタイミングや時間帯を見計らって鳴くこと、鳴き声とは異なる形質によって求愛を行うことが有効な対抗手段として考えられる。本研究では熱帯域の赤道直下に位置するマレーシア・ボルネオ島のクバ国立公園に存在する、多くの種のカエルが繁殖地として利用する池において、複数種のカエルの鳴き声調査を行った。夜18時から朝8時までの長時間録音を行い、カエル類がそれぞれの種ごとに鳴き声を出す時間帯を分けているかを検証した。その結果、鳴く時間帯を限定するかや、その限定の程度は種によって大きく異なることが明らかとなった。中でも、カブトシロアゴガエルPolypedates otilophusは一晩のうち15分程度しか鳴かないという珍しい行動を示した。これは一般的なカエル類が、繁殖期には長時間鳴き続けることで交配の機会を増やして、自身の繁殖適応度を上げようとする通常の行動とは大きく異なる。本研究で得られた新知見は、まだ基礎的な情報の少ない熱帯域のカエル類の繁殖生態や極めて高い種多様性の形成機構の解明に貢献するであろう。