オンブバッタは雄が雌の背に乗り（おんぶ状態になり）配偶者防衛を行う。雄同士では噛み付くなどの闘争が見られるので、配偶者防衛では体の大きなものが有利と思われる。しかし、雄は雌に比べて極めて小さく、体が大きくなる淘汰がかかっているようには見えない。そこで、どのような雄が実際に交尾できているのかを明らかにするために、野外調査を行った。野外で雄がおんぶ状態のものと単独でいるものの体サイズを測定したところ、おんぶ状態の雄の体重が軽い傾向が見られた。しかし、前胸背板長には違いがなかった。おんぶ状態になると雄は草を食べるのが困難である。餌を食べられないのでおんぶ状態が続くと雄は軽くなるのかもしれない。そこで、雌と一緒にしておいておんぶを続けた雄と単独でおいた雄の体重の変化を測定したところ、単独雄の方がおんぶをしていた雄と比較して体重が有意に大きく増加していた。従って、野外で見られた雄の体重差はおんぶの結果であり、体サイズは交尾しやすさとは関係ないと考えられた。一方、野外でおんぶ状態になっていた雄と雌の体重および前胸背板長の関係を見ると、どちらにも弱い正の相関が見られた。つまり、大きい雄は大きい雌と交尾する傾向が見られた。大きい雌は多くの卵を生むことができるので、雄にとって価値が高い。大きい雄は価値の高い雌と交尾できており、交尾回数では小さい雄と差がなくても交尾相手の質の点で小さい雄より優位に立っているといえる。